最近、区画整理地内の取引がございまして、このタイミングで以前ご質問頂いた事を今回ご説明させて頂きます。
Q.土地区画整理がされると借家権はどうなるのか?
【ご相談内容】
私は借家で店舗を営んでいますが、借りている借家の敷地が土地区画整理事業の対象となって、借家が新しい換地に移転することとなりました。
移転するとなると、私はいったん借家から退去しなければなりませんが、私の借家権はどうなるのでしょうか?また、賃料などの条件が変わって不利益をうけることはないでしょうか?
A.土地区画整理事業により借家が移転されたとしても、建物の同一性がある限り、従前の借家についての賃貸借関係、借家権は存続します。
※ただし、区画整理の結果、立地条件の変更等により、①借家の利用価値に増減が生じた場合は、賃料の増減額請求権が認められ、②賃借の目的を達することができなくなった場合は、契約解除権が認められますので、不利益が発生した場合でも、救済措置が認められています。
【賃料の増減額請求、契約の解除】
土地区画整理事業が施工されると、換地がされますが、従前地上にあった建物が換地に移転された結果、その建物の利用価値が増し、または妨げられるに至ったため、当該建物に関する賃貸借契約の従前の賃料が不相当となった場合においては、契約当事者は、契約の条件にかかわらず、将来に向かって賃料の増減額を請求することができます。
この増減額請求があった場合、借地借家法32条が準用され、請求した当事者は、以後、自己が相当と考える賃料の支払、請求をすればよいことになります。
したがって、建物の利用価値が減少した場合には、借家人から賃料の減額請求をして、自己が相当と考える賃料を支払えば足り、もし、家主がその受領を拒否すれば、賃料を供託すればよいわけです。
逆に利用価値が増して家主から賃料増額請求があった場合、借家人は、賃貸借契約を解除することができます。また、建物が移転された結果、その建物を貸借した目的を達することができなくなった場合においては、借家人は、その契約を解除することができます。目的達成不能による契約解除の場合は、借家人は土地区画整理事業の施行者に対し、その契約を解除したことにより生じた損失の補償を請求することができます。施工者は、家主に対して、家主が契約解除によりうける利益の限度において求償請求することができます。
なお、賃料の増減額請求、目的達成不能による契約解除は、換地処分の公告があった日から起算して2カ月を経過した日後はすることができませんので、注意してください。
また、区画整理の内容によっては、既存建物を移転しないで換地がされることもあり(これを原地換地といいます。)、この場合も、前記移転の場合と同様に扱われます。
【建物の同一性と借家権の存続】
建物を移転する場合、その方法には、建物を換地まで曳行して移転する方法と、建物を解体して換地上に移築する方法があります。
曳家移転の場合は、建物の同一性が維持されることに問題はありませんが、解体移転の場合は、①同一性が失われ、したがって、借家権も消滅するとの説もありますが、②判例では、移築後の建物が旧建物の建築資材の大部分を使用していれば、面積、構造に若干の相違があっても建物としての同一性があり、旧建物の賃貸借関係は存続されるとされています。
移転の場合は、曳家移転、解体移転のいずれであっても借家人はいったん建物からの退去を余儀なくされますが、建物としての同一性がある場合は、移転された建物の借家人として、これを使用する権利があります。したがって、もし家主が移転後の建物への入居を拒否するのであれば、借家人は家主に対して、賃貸借契約違反として、入居を請求し、併せて、入居を拒否されたことによる損害賠償を(借家人が営業者であれば、営業不能による逸失利益なども)請求することができます。
《参考となる法令など》
土地区画整理法116条、117条
青森地判昭31.8.31下民7.8.2359
大阪地判昭46.2.26判夕266.241
神戸地判昭59.10.19判時1150.218